プライマリーレスピレーションprimary respirationとは、クラニオセイクラルの専門用語です。
日本語では、第一次呼吸と訳されることが多いと思いますが、あえて、このブログでは原初の呼吸と呼びたいと思います。
私たちの多くは、出生と共に産声をあげて、初めての肺呼吸をするのですが、原初の呼吸はすでに、受精卵であるころから始まっています。
細胞が、一つから二つになるその瞬間でさえも、呼気、吸気のように、拡張したり、収縮したりして、細胞そのものや、細胞の分裂にまで原初の呼吸は働きかけています。
原初の呼吸についてのお話をする前に、少し、クラニオセイクラルの歴史を手短にお話したいと思います。
クラニオの綴りは、英語の接頭語であるcranio- 日本語では頭蓋という意味があります。
セイクラルとは、同じく英語でsacral、日本語で仙骨のことであり、クラニオセイクラルを訳すと頭蓋仙骨療法です。
英語であるのは、クラニオセイクラルが発見された場所は米国であるからです。
現在ではヨーロッパでとても発展しており、ドイツ、イギリスなどでは、保険治療でカバーされる療術です。
アメリカで生まれたこのような治療体系は、クラニオセイクラルのほかに、皆様のよくご存知のカイロプラクティスなどがあり、また、オステパシーと呼ばれる医療があります。このオステオパシーは、米国では医学の一つの分野としてすでに確立しており、大学での修士課程を終えて初めてドクター・オブ・オステオパシーの称号が与えられます。
クラニオセイクラルの父親とも呼べるウイリアム・サザーランド先生は、今から100年ほど前にアメリカでオステオパシーの勉強をされていました。当時、先生は、耳の上の側頭骨という骨が魚のえらの様に動いているのではないかとの仮説をたて、ご自分でヘルメットのようなものを被ったりして、脳の動きを研究されました。
それでは少し、脳の構造をとても大まかにお話します。
まず、頭に触れると髪の毛の下に、頭皮があります。その下には、頭蓋骨があります。
もっと奥には、大脳がありますが、この頭蓋骨と大脳の間には、脳脊髄液という液が流れています。直接脳が、ぴっちりと頭蓋骨にくっついていると、何らかの物理的な衝撃があったときに、直接脳にダメージを与えてしまうのですが、この脳脊髄液は、クッションのような役割を果たし、衝撃を吸収してくれるのです。
サザーランド先生が、側頭骨がえらの様に動いていると思われたのは、この脳脊髄液の働きに関係しています。
側頭骨のえらの様な動きは、脳脊髄液を通した、原初の呼吸の現われです。
脳脊髄液から、原初の呼吸を感じ取れるのです。つまり、脳脊髄液から、呼気、吸気を感じ取れるということです。
クラニオセイクラルのセラピーは、この脳脊髄液の原初の呼吸に大変関わりの深いワークであり、脳脊髄液から頭蓋骨に伝わった原初の呼吸の動きをセラピストは、手や身体などで感じ取るのです。
脳はいくつかの骨の集まりで、縫合によってくっついてしまっているので、動かないとされる考え方もありますが、実際、訓練されたクラニオセイクラルのセラピストは、施術を受ける人のコンディションが原初の呼吸をしているのであれば、たいてい、当然の様にその動きを感じ取っています。
この脳脊髄液から伝わる、原初の呼吸は、実際には、長さと広さがあります。
短いスパンで呼吸をすることもあれば、長い息で呼吸をすることもあります。
それでは、この、長い息で呼吸をし始める状態を、このセラピーのセッションの場所以外で感じ取れる場面についてのお話をしたいと思います。
しかし、これは、数多くあるクラニオセイクラルの専門書に記載されていたことでは全くなく、あくまで私の個人的な経験に基づく、私の原初の呼吸に対する理解でありますが、お読みくださって、なんとなく体感的に共感していただける方は多くいらっしゃるような気がしていますので、ここに紹介をいたします。
私は6歳から19歳まで書道を習っていました。
小学1年生から6年生まで、楷書を習います。
中学生になると行書といって、楷書より画一つ一つがくっついたような、流れがあるように見える字体を書き始めます。
主に、楷書を習っていた頃に、はねる、はらう、止めるなどの基本的な筆使いや、姿勢などを習い、この頃には、楷書の基本は概ねある程度出来上がってきている状態であります。
次に、行書ですが、これまでの基本を踏まえながら、文字に流れをつけて行くのですが、楷書体より、行書体の方が、実際書くスピードはゆっくりです。
行書ならではの筆使いを学びながら、練習していくのですが、最初はなかなか思う様にかけません。スピードがゆっくりである分、より、こちらの息使いと、筆使いがはっきりと書に現われます。
つまり、上手く書けない時は、はっきりそれが現れます。
そして、練習をすればするほど、時間が濃密になっていきます。
すると、ある瞬間が訪れます。
私の息使いと、筆の息使いの波長が合ってくるのです。
まるで、筆が呼吸をし始めたかのように、流れに乗り始めるのです。
この瞬間は、とっても気持ちがいいのです。
書が生き生きとしてきます。
そして、また、次の練習をしたときに、同じ流れに乗れる瞬間がやってくるのかというとそうではありません。
また、同じように訓練をすることになるのです。
しかし、また、ある瞬間にその波に乗る瞬間がやってきます。
2002年に米国へ旅した後に偶然知ったクラニオセイクラルの、セラピーを習うための初回のイントロダクションという、どんな施術なのかを体験するようなコースを受講しました。
指導された通りに、5グラムで、相手の人の腿に手を置いた瞬間、サーフィンのように、波に乗るかのような感触を味わいました。
それが、また、とっても気持ちがいいのです。
書道で味わった、あの、波に乗るときと同じ感覚でした。
そして、私はこのセラピストになる以前、ファッションデザイナーでした。
デザイン研究所にいた頃は、毎日のように絵を書き、作品を作る日々でした。
描いても、描いても、同じような色やシルエットになってしまって、全く前に進めないような時期があるのですが、また時間が濃密に感じられた後に、あの瞬間がやってきます。
手が呼吸をするのです。いや、全身が呼吸をするのです。
全てのかけらが一つになっていくように、統合されるように、作品のテーマが反映されるような絵が描けるときが来るのです。
絵が描けたら今度は、パターンです。型紙を引いて、人体の模型に着せて型紙を調節していくのですが、この時に、絵を描いたときの波に乗れないと、絵を描いたときの、波に乗っているような気持ちよさと感動が、全く実際の立体に反映されない、ただ色と形が同じだけの作品になってしまうのです。
絵を描いたときの、波に乗る感覚が来るまで、やり直しです。
しかし、絵を描いたときが最高潮で、また訪れないのではないかと心配になったりもしますが、一度波に乗れたら、意外にも絵よりいい立体が組めたりすることもありました。
私は、この波に乗る感覚が、原初の呼吸の現われだと信じています。
書道では臨書といって、王羲之や顔真卿などの歴史的国宝レベルの作品を見て、そっくりに真似をして描くという練習があります。
あの練習の目的は、書家の息使いを、今、臨書することによって、再体験をする練習だったのだと思います。
書家の息使いを再体験するとは、つまり、どのように原初の呼吸が書家を通して伝わり、表現されたかを自分の身体を使って、再体験するということです。
書には気が入っているだとか、精神統一をして書くなどといわれることがありますが、それはつまり、原初の呼吸をした息吹が、肉体を通って、書に反映されるということと同義だと思っています。
最後に、私はアイススケートの荒川静香さんがとても好きです。
たくさんの金メダリストがいらっしゃるなかで、2006年のトリノオリンピックで金メダルを受賞したフリープログラムの演技は、まさに原初の呼吸に乗っている状態でした。
荒川さんは、2004年にドイツでワールドチャンピオンになられた時点で、アイススケートの世界最高である技術を持っておられていたと思います。しかし、2006年では、技術を超えて、芸術の分野に足を踏み入れたまさに、身体を使った芸術作品でした。
2006年トリノオリンピック 荒川静香さんフリープログラム金メダル受賞
私は、身体に伝わった原初の呼吸を、書や絵、またはファッションデザインとしての作品に反映させていましたが、今度こそ、自分自身の身体を使った、芸術に触れたいとの思いで、2007年からヨガを志しています。2013年にもなりますが、ヨガの奥が深い事もあり、まだ基本的なことをマスターしようとしている状態です。
しかし、頻度はとても低いのですが、あの瞬間は訪れるのです。
指導を受け、何度も同じ型を繰り返し練習した後に、大きな波に支えられて、まっすぐ立ち、全身のバランスを保っているような感覚を覚えます。そして、波に乗って、深い呼吸と体の動きのバランスが自然にとれる瞬間が訪れるのです。
これを読んでくださっているあなたが、ご自身の専門分野にてこのような原初の呼吸の体験をされておられたとしたら、そしてまた、わかるなぁと少しでも共感してくださったらとてもうれしいです。
クラニオセイクラルをヒーリングアートと呼んでおられる先生もいらっしゃるくらい、クラニオセイクラルは芸術的な質を持っています。
そして、もし、あなたが芸術の分野を志しておられたら、私は、この原初の呼吸という全ての生命のエッセンスにたどり着くためのお手伝いができると信じています。
長文になりましたが、お読みくださってありがとうございました。
またのご訪問を心より、お待ちしております。
中満整体
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